> サイト一覧 > 詰将棋の鑑賞 > 鑑賞室 / 仮想実戦の虚構的進化「陣形図式」
 

今回は陣形図式を取り上げます。手順の長いものが多いので、盤に並べてみることをお勧めします。

詰将棋の出現は、指し将棋という親があってこそのものであり、草創期には実戦から詰みに関係のある局面だけを切り取ったような作品が多くあります。
時を経るにつれ、いろいろな趣向が凝らされるようになり、初形曲詰やあぶり出し、煙詰などが登場するようになりました。
11香と21桂が配置してある詰将棋をよく「実戦型」と呼びますが、その中でも陣形図式と呼ばれるやや特殊なものがあります。まずは次の2図をご覧ください。

[第1図]伊藤 果(近代将棋平成2年4月号、詰のオルゴール第61番)

[第2図]山田康平(近代将棋平成3年7月号、流星雨第101番)

第1図は一般的な矢倉囲い、第2図は居飛車穴熊の進化形ビッグフォーです。
このように実戦に現れるような囲いを後手玉に施し、それを詰めてしまおう、というのが陣形図式の真髄なのです。

伊藤作正解―32飛成、同玉、41角、22玉、31馬、12玉、21馬、同玉、31金、12玉、24桂、同銀、22金、同玉、32馬、12玉、21馬まで17手。

実戦なら31角、12玉、32飛成、22合、同角成、同銀、31馬で必死とするところでしょうか?
9手目31金と下段に打って角の利きを通しておくことが肝要で、持駒もキレイに使い切っての清涼詰(詰上りで攻方の駒が2枚のみ)。詰将棋作家伊藤果とプロ棋士伊藤果の二人が作り上げたような作品ですね。

山田作正解―21龍、同金、同龍、同玉、31金、22玉、32角成、同銀、同金、同玉、43銀、同玉、55桂、32玉、43金、23玉、33金、同玉、42角成、同玉、43銀、33玉、34銀上、22玉、32銀成、同玉、43桂成、21玉、22歩、同玉、33銀成、11玉、22金まで33手。

史上最強、鉄壁の相手陣ですが、飛角4枚の睨みで一気に詰むというのですから驚きです。
特に難しい手順ではなく、流れるように詰みますが、その中で19手目42角成が前半と後半を結びつける力強い一着となっています。
詰上りでは後手陣は完全に崩壊し、これほど気分爽快な詰将棋も稀ではないかと思われます。

さて、これら正統派?陣形図式を更に趣向化させたものも幾つか登場しています。



[第3図]谷岡里覧(詰将棋パラダイス489号)

[第4図]管理人(未発表)

ふつうによくある美濃囲い……と思いきや、入城しているのは後手玉です。
なんせ周囲は攻方の駒ばかり。最初の2作よりは簡単と思います。

谷岡作正解―39金、同玉、28銀、同玉、49銀、19玉、28銀、29玉、38龍、18玉、39銀、17玉、28龍まで13手。

初手39銀と重く打つのは19玉、28銀打、18玉となって王手が続きません。初〜3手目で49金を消去して、銀を引く余地を作るのが主眼となります。

管理人作正解―39金、同玉、49龍、28玉、39銀、19玉、28銀、同玉、19銀、同玉、17桂、18玉、29龍、17玉、19龍、18香、29桂まで17手。

谷岡作に玉方25銀を追加し、その分持駒に桂馬が増えただけの作品です。
谷岡作と同じ手順で追うと、6手目27玉と逃げられて詰みません(谷岡作では以下36銀と打って詰み)。そこで今回は、19香を消去して、龍と桂馬による開き王手ができる形を作ります。持駒の桂馬の意味は最後になってようやくわかりますね。

これら世にも不思議な陣形図式はまだまだかわいいもので、さらに怪奇な方面に進化した陣形図式を一つご紹介しましょう。


[第5図]宿利 誠(詰棋めいと第5号、詰将棋パラダイス400号)

一見するとふつうの矢倉に見えます?が、玉方の香、桂、銀が全て成駒になっているのです!
実戦では絶対に現れることのない恐怖の実戦型、果たして正解手順に辿りつくことができるでしょうか?

宿利作正解―32飛成、同成桂、31角、21玉、32馬、同成銀、33桂打、同金、同桂不成、31玉、21金、同成香、同桂成、同玉、12金、31玉、43桂、同成銀、22金、41玉、32金、51玉、63桂、61玉、71桂成、51玉、52香まで27手。

2手目32同成銀は33金、同金、同桂成、同玉、51角以下。8手目31玉は71飛成、42玉、62龍、31玉、21金、同成香、51龍以下。

形だけかと思われがちな初形ですが、手順も力強い捌きを主体とした素晴らしいものです。本作には「裏矢倉」という命名があります。
作者の宿利氏はこのようなアイデアものには抜群の力を発揮された方で、この他にもユニークな佳作を世に送り出されていました。


一般的には指し将棋と密な関係にある陣形図式。しかし、詰将棋作家のアイデア如何によってはこのような見事なパズルにまで昇華させることも可能です。

特に「裏矢倉」のように小駒の成駒を使うことに詰将棋作家はある種の抵抗を持っているのですが、それゆえにまだまだ未知の可能性が広がっているのも事実なのです。

 

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