> サイト一覧 > 詰将棋の鑑賞 > 鑑賞室 / さまよえる魂「5手詰の毒牙」
 

今回はちょっとマニアックな5手詰を取り上げましょう。

まずはこの2題をお考え下さい。

[第1図]YYZ(パラ昭和62年3月号)

[第2図]行き詰まり(パラ平成2年2月号)

両図とも中段玉で、飛角による開き王手のできる形。複雑そうに見えますが、YYZ作は64玉を許さないために初手74龍・84龍・94龍のいずれか、行き詰まり作は84銀を動かすと83香でイマイチ(95銀なら同玉)なので58飛を動かす開き王手しかなさそうです。それでは手順を見ていきましょう。

第1図正解?―84龍、66玉、57金、同龍、64龍まで5手。

初手84龍は、54玉&75玉&56玉の3つの逃げを封じる効率の良い手。金を捨てて64龍の詰上りも緊張感がありますね。

第2図正解?―57飛、49と、95銀、83香、55飛まで5手。

95銀と開き王手をすると同玉で手が出ません。この時に飛を9筋に振れるように初手の開き王手で移動させるのが初手の狙いです。59飛と引くのも有力ですが、これには単に86玉で詰みません。そこで57飛と一歩だけ上がるのが好手で、86玉なら75銀上まで。これで狙い通り飛車を横に活用できるので95銀が成立します。飛車をすっと上がっての詰上りが絶品!

……さて、まあ「?」がついているので怪しまれるとは思いますが、以上の2つの手順は誤っているのです! どこが誤っているのか、そして本当の正解手順はどれなのか、もう一度お考え下さい。


[再掲第1図]

正解94龍!、66玉、57金、同龍、64龍まで5手。

初手84龍には74歩合(紛れ図)が鋭い切り返し。同龍なら56玉で広いし、同角成なら66玉、57金、同龍の局面で龍の転回を馬が邪魔しているので逃れ。

[第1図紛れ図]

正解は94龍となぜか離れてしまう手で、深い意味をもった絶妙手! 対して先ほどと同様に74歩合なら同角成、66玉に96龍!! 奇妙な龍の行動も、狙いが分かれば至上の妙手であることが理解できます。

詰パラ発表時、155人中58人が誤解。

[再掲第2図]

正解54飛!、49と、95銀、83香、55飛まで5手。

初手57飛には67歩合(紛れ図)が妙防! 同角と取ると飛筋が止まってしまい、以下86玉、75銀引、97玉以下逃れ。

[第2図紛れ図]

正解は54飛と実にぼんやりとした一手。すぐに狙いを読み取ることができず、それゆえに指しにくい手になっています。ではその狙いとは?……銀の影になっていると金を狙っているのです!!

54飛に対し、86玉は75銀引、97玉、94飛!まで駒余り。4手目95同玉に対しても94飛と回って詰みます。初手57飛と違い、この手順に対して合駒が利かないのが重要なポイントです。詰上りの浮遊感も抜群で、実に完成度の高い作品です。

詰パラ発表時、165人中67人が誤解。恥ずかしながら、わたしも誤解者の一人でした(^^;


さて、それでは現在5手詰の最多誤解者数を誇る作品をお見せしましょう。
罠があることはもう明らかですので、引っかからないようにご注意を。

[第3図]泰永三二朗(詰パラ昭和55年2月号)

盤上所狭しと並べられた駒の群れ。よーく見ると持駒を活かす場所がいくつかあるようですが……。
ちなみに玉方の持駒は歩のみです。


第3図正解?―79香!、64玉、14飛!、55玉、99角!まで5手。

持駒3枚、5手詰と分かっているので打っていくだけです。初手は取られないように14飛か79香ですが、14飛は75玉と逃げられて詰まない模様。そこで79香と上部から攻めます。合駒は歩しかないので64玉。3手目75角は55玉で逃れるので今度こそ14飛と離して打ち、55玉に99角で合い利かずの詰上り。
最遠香、最遠飛、最遠角と3種の最遠打を表現した極上のパズルです。
……。

YYZ、行き詰まり作をご覧になった方なら、どこに罠が落ちていたかもう見当がついていますよね?

第3図正解―76香!!、64玉、14飛、55玉、99角まで5手。

初手79香に対しては77桂成!(紛れ図)と成り捨てるのが意表の鬼手。同香と取って同様に手順を進めると最後にその意味に気付きます。そう、99角が王手にならない!

[第5図紛れ図]

正解は「利きのないところ」ではなく、「利きのあるところ」に打つ76香。桂馬で取られるので当然のように思考から除外されていた手なのですが、同桂なら84飛、75玉、85金でぴったり駒余り。この変化も盲点になっていますよね。
3種最遠打が狙いの簡明な作と見せかけておいての罠。これに引っかからないはずがありません。

詰パラ発表時、196人中90人が誤解。


自信満々で送ったはずの解答なのに、なぜか全題正解者の欄に名前がない……自分が罠に陥った時の悔しさといったらもう、地団駄を踏んでしまうこと間違いなしです。今回紹介した3作は「罠」というテーマをもって見てみると、ひじょうに上質な、そして表現として完璧に近いように思われます。悔しさとともに、作者を称賛したくなる……この気持ちも分かっていただけると思います。

なお、誤解者数の最多記録は、もう何度も紹介してきた3手詰「新たなる殺意」です。183人中98人、果してこの記録を塗り替える超短編作は現れるのでしょうか?

(今回の内容は詰パラ平成2年12月号「塩見パターンを読む」を参照しています)

 

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