> サイト一覧 > 詰将棋の鑑賞 / 橋本孝治作「ミクロコスモス」
 

以下は詰将棋パラダイス昭和61年10月号掲載のものを、Web用に再構成したものです。一部誤植と思われるものは直しました。



フェアリーの世界  結果発表
解説 桔梗

史上第一位 驚異の千手超え!!

 橋本孝治氏作1519手詰

 命名「ミクロコスモス」

(入選14回)


62桂成、同玉、72桂成、63玉、74と、72玉、83と、63玉、84と、83桂合、74と、62玉(第1図・12手)

(第1図)
第1図より
「63歩、72玉、83と、63玉、84と、83桂合、74と、62玉」=A手順、
61と、52玉、51と右、42玉、41と右、32玉、31と右、22玉、21杏、12玉、24桂、同歩、11杏、22玉、24龍、23歩合、21と、32玉、31と左、42玉、41と左、52玉、51と左、62玉、「A」、61と……42玉、34桂、同と、41と右、32玉、34龍、33歩合、31と左……62玉(第2図・68手)

(第2図)
第2図より
「A」、61と……32玉、24桂、同歩、31と右、22玉、24龍、23歩合、21と……62玉、
「A」、61と……22玉、14桂、同香、21杏、12玉、14龍、13歩合、11杏……62玉、
「63香、72玉、83と、63玉、84と、83桂合、74と、62玉」=a手順、
61と……32玉、24桂、同歩、31と右、22玉、24龍、23香合、21と……62玉、
「A」、61と……42玉、34桂、同香、41と右、32玉、34龍、33歩合、31と左……62玉、
「A」、61と……32玉、24桂、同香、31と右、22玉、24龍、23歩合、21と……62玉、
「a」、61と……42玉、34桂、同歩、41と右、32玉、34龍、33香合、31と左……62玉(第3図・208手)

(第3図)
第3図より
「A」、61と……32玉、24桂、同歩、31と右、22玉、24龍、23歩合、21と……62玉、
「A」、61と……22玉、34桂、同香、76歩、44と(第4図・280手)

(第4図)
第4図より
21と、32玉、34龍、33歩合、31と左……62玉、
  「a」、61と……32玉、24桂、同歩、31と右、22玉、24龍、23香合、21と……62玉、
  「A」、61と……42玉、34桂、同歩、41と右、32玉、34龍、33歩合、31と左……62玉、
  「A」、61と……32玉、24桂、同香、31と右、22玉、24龍、33歩合、21と……62玉、
  「a」、61と……22玉、14桂、同歩、21杏、12玉、14龍、13香合、11杏……62玉、
  「A」、61と……12玉、24桂、同歩、89馬、45と(第5図・424手)

(第5図)
  第5図より
  11杏、22玉、24龍、23歩合、21と……62玉、
  「A」、61と……22玉、14桂、同香、21杏、11玉、14龍、13歩合、11杏……62玉、
  「a」、61と……32玉、24桂、同歩、31と右、22玉、24龍、23香合、21と……62玉、
  「A」、61と……42玉、34桂、同歩、41と右、32玉、34龍、33歩合、31と左……62玉、
  「A]、61と……32玉、24桂、同香、31と右、22玉、24龍、23歩合、31と左……62玉、
  「a」、61と……42玉、34桂、同歩、41と右、32玉、34龍、33香合、31と左……62玉、
  「A」、61と……32玉、24桂、同歩、31と右、22玉、24龍、23歩合、21と……62玉、
  「A」、61と……22玉、34桂、同香、88馬、44と(620手)
(第4図からの『』340手を繰り返す)
21と……78馬、45と……77馬、44と』
21と……67馬、45と……66馬、44と』(第6図・1300手)

(第6図)
第6図より
21と、32玉、34龍、33歩合、31と左……62玉、
「a」、61と……32玉、24桂、同歩、31と右、22玉、24龍、23香合、21と……62玉、
「A」、61と……42玉、34桂、同歩、41と右、32玉、34龍、33歩合、31と左……62玉、
「A」、61と……32玉、24桂、同香、31と右、22玉、24龍、23歩合、21と……62玉、
「a」、61と……22玉、14桂、同歩、21杏、12玉、14龍、13香合、11杏……62玉、
「A」、61と……32玉、24桂、同歩、31と右、22玉、24龍、23歩合、21と……62玉、
「A」、61と……42玉、34桂、同歩、41と右、32玉、34龍、33歩合、31と左……62玉、
「A」、61と……22玉(第7図・1490手)

(第7図)
第7図より
14桂、同香、82龍、同金、21杏、12玉、13歩、同玉、25桂、同銀、14香、同銀、同龍、同玉、16香、24玉、25銀、35玉、46と、26玉、48馬、同銀、36と、17玉、28銀、18玉、19銀、同玉、29金打(詰上り図)迄1519手

(詰上り図)

◇正解者(29名中21名)
市村道生 今泉博史、岩田真紀夫
岡田昌夫 蒲池 聖 危険児
小林 徹 小林敏樹 阪口和男
竹内敏己 田島秀男 新宿T&T
西田尚史 野田達志 福井敏幸
穂上武史 堀ちえみ 松尾弥昇
村井昭彦 森 美憲 吉田芳浩
◎当選(電卓5名)岩田真紀夫、
 蒲池聖、小林敏樹、竹内敏己、
 新宿T&T 
 (ステレオミニホン5名)危険児、
 福井敏幸、松尾弥昇、村井昭彦、
 森美憲
☆賞品提供/七條兼三氏


「拝啓
 先輩に手紙を出すのはこれが初めてですね。実はどうしても見て欲しい作品があるのです。(中略)
 手順は要するに「イオニゼーション」に馬ノコを組み合わせたものですが、あまりに長手数になったので当惑しています。
 作意1523手。(中略)
 実はすでにパラに投稿もしているのですが、とにかく早く誰かに見せたくてうずうずしています。(中略)
 23日の詰朗会には参加するつもりです。できたらそのときに会いたいです」
☆一枚の図面が同封された手紙が、橋本孝治氏から筆者の元に届いたのは今年の3月も半ば過ぎ。
 「あの自殺詰がとうとう完成したのか?」
 最初にこう思ったのは、以前に彼から二万手超えの自殺詰(不完全)を見せられていたせいだ。実際、一段目のと金の並びなど、似ている箇所もあったのである。
★ところが驚嘆すべきことに、今度の作品は普通の詰将棋だった!!
 作意は、と探しても手紙のどこにも書いてない!(なんて後輩だ)
 とにかく作品の完全・不完全は別として、千手超えの構想が現実のものとなったのかもしれない……。
 早速、棋友の添川公司氏に電話を入れて、二人で検討してみた。
☆作品としては、次の四つの部分によって構成されている。
<持駒変換>
 第1図からの8手(A手順及びa手順)により、持駒の歩または香が桂に変換できる。
<と金送り>
 62玉を42・32・12のどの地点へも運ぶことができ、さらに62へ戻すことができる。
<玉方の駒位置変換>
 13・23・33の地点での合駒は、歩または香しかなく、そのため玉方の香を13→23→33、そして33→23→13と動かすことができる。
 (桂合も可能だが、83の合駒がなくなってしまう)
<馬ノコ>
 99馬を89→78→77→67→66と接近することができる。
★ここまでは、前作「イオニゼーション」の発展ということで、到達はそれほど困難ではない。
 しかし、ここまでわかったからといって解いたことにはならない。
 いくつかの疑問についての説明が必要であろう。
@なぜ、玉方の香を動かすのか?
 参考1図は、13香型のまま34桂、同歩から76歩と突いた局面。
(参考1図)
 前掲第4図と較べていただきたい。
 参考1図の場合は44歩と受ける。
 以下21と、32玉、34龍、33歩合、31と左、42玉となり、43歩が打歩詰で打てない。
 第4図のように、34の駒が香ならば43香迄で詰むわけである。
 したがって、馬ノコの手順中、99馬(あるいは88馬、77馬)で王手をする際には、香を3筋にもってこなければいけない。
 参考2図は、33香型のまま24桂、同歩、89馬、45ととなった局面。
(参考2図)
 参考2図から手を続けるならば、第5図の場合と同様に、11杏とするしかないが、同玉、13龍、12歩合で不詰。
 13の駒が香でなければいけない所以である(21と〜23香がある)。
A馬で王手した際の変化と紛れ
 まず、第4図で44とでなく、55ととした場合(参考1図での13香と34歩を取り替えて考えて下さい)。
 これは55同馬とし、左辺に追ったとき、香歩の持駒があるので、
 「A」、63香、72玉、84桂と進めて詰む。
 また、第5図(参考2図の13歩と33香を取り替える)の45とに対して、同馬と取るのは、同銀、11杏、同玉、13龍、12角合で不詰となる。
 45との受けで、34歩や34ととするのは、13龍、同玉、25桂以下。
 もう一つ、参考3図は331手目34桂と打った局面。
(参考3図)
 作意では34同歩と取るのだが、34同とならば、33龍、同ととしてから、左辺で桂を獲得し、22玉に34桂と打って詰む。
B馬ノコ自体の意味
 何のために馬ノコをするのか?
 参考4図を見ていただきたい。
 もうすぐ大団円間近の1509手目46との局面である。
(参考4図)
 66馬型なので、46同玉ならば、47と、同玉、48金以下で詰む。
 77馬型だと46同玉でダメだし、67馬型だと46同とで不詰、というのが本作のストーリーである。
C61とに対して同玉の変化
 この変化を読み飛ばした解答者が多かったようだが、非常に難解。
 代表して参考5図を挙げておく。
 137手目の61とを同玉と取った局面である。
(参考5図)
 参考5図以下、91龍、71歩合、73桂、同馬、51金、72玉、73と、同銀、同香成、同玉、71龍となり、
 (イ)72歩合は74銀、同玉、54龍、同歩、72龍、73桂合、52角、84玉、73龍。
 (ロ)72香合は74銀、64玉、62龍、75玉、66龍、84玉、85銀、93玉、94銀、同玉、54龍、同歩、85角以下。
 (ハ)72桂合は74銀、64玉、61龍、62歩、同龍、75玉、76歩、同圭、66と、84玉、73角、94玉、85銀以下(ロ)に準ずる。
☆お恥かしいことだが、筆者は収束部分に入ることが出来なかった。
 66馬と近づいて、84・93方面へ利きが通るので、てっきり左辺から収束するものだと思い込んでしまったのである。
 実際、小生と同じ過ちを犯した解答者(不詰と指摘)も見受けられた。
記録的なことについて
 手数=1519手!! (作者も最初は数えまちがえた)
 1サイクル(馬ノコ)=340手! (史上最長でしょう)
 合駒回数=106回 (「メタ新世界」は158回)
☆この「ミクロコスモス」と命名された作品の詰棋界に与えた衝撃については言うまでもない。
 山本昭一氏の「メタ新世界」(詰パラ57年7月号)の941手を一気に600手近く更新して、夢の千手超えを実現!
 マスコミにも大々的に取り上げられ橋本氏に取材の申し込みが殺到しているのだが、呼び出し電話のため、下宿のおばさんが怒りまくっているなど、その影響は計り知れない!?
★ただ、本作が未来永劫、究極の長手数作品かというと、そんなことはないはずである。
 山本昭一氏が「メタ新世界」の解説でいみじくも述べているように、また「新たなスタートラインが引かれた」というべきかと思う。
 この次はどんな凄い作品が出てくるのか、それを心して待ちたい。
☆本作誕生のいきさつ、その他については、座談会の方を参照されたい。なお、解答表記については、穂上武史、吉田芳浩両氏の解答を参考にさせていただいたことを付記しておく。

 正解者評

阪口和男―この図を見た瞬間、身ぶるいがした。これは千手超えに間違いないと思ったからだ。正に記録は破られるためにある。詰将棋に限界などない。それにしても1519手という予想をはるかに上回る超長手数にはぶったまげた。

福井敏幸―「これが千手超えか。さて千何手だろう」と思って解いてみたらなんと千五百手超え! ばか詰の一万手超えにみられる盤面変化を普通詰棋にとりこんだ手腕には脱帽。変化も複雑(一回読めばあとはそれを応用できるが)で、なかなか苦しんだ(すべて読んだので)。収束にキズ(16香は17香でも良いし、48馬に対して同銀成、不成を特定できない)があるが、仕方ないであろう(左辺の駒が働かないこともある)。それでもすべての駒が実に良く働いていてGOOD。当分破られないであろうこの記録に拍手!

堀ちえみ―ついに出た千手超え、予想した手数より五百手以上長かった。最後は大駒3枚が消え、解後感も悪くない。完全を願っています。さらに長手数の傑作を作って下さい。S61年度の看寿賞、長編賞は決定!

穂上武史―遂にやった千手超え! やはりイオニゼーションは前奏曲に過ぎなかった。仕組みは巧妙の一語に尽きる。持駒変換機構、香の位置変換の意味付け、そして趣向全体の意味付けである収束……。どれをとっても一級品である。限られた盤と駒でよく表現できたものだ。詰将棋史の頂点に燦然と輝く超大作。今年度の看寿賞受賞は当然として、看寿賞を来年度から孝治賞と改めてもいい、とさえ思う。

蒲池聖―問題に取り掛かってから早一月、66馬まで行き就いてから2週間やっと解き終わりました。「イオニゼーション」等を研究していたせいで趣向には割と楽に入れましたが、収束に入るのに一苦労。千五百手超え! この歴史的瞬間に立ち会えたことを幸せに思います。回り道が沢山ある、収束の非限定等の欠点はあるかもしれないが、この手順では関係無い。紛れと変化の微妙な兼合い、そして収束の48馬の切れ味等傑作の名はこの作品の為にある。完全であることを切に祈ります。

岩田真紀夫―仕掛けは単純にして極めて巧妙。素晴らしいパズルの世界で遊ぶうちにいつのまにか前人未到の長手数に達する。

竹内敏己―山本氏のメタ新世界からわずかに4年、期待された千手超えを大きく上回る千五百手超えとは驚かされた。持駒変換+と金はがしという最近の長手数詰の傾向とは異なる点、作品の完成度、独創性等から見て、その時期での作品の価値観は看寿の611手詰と比べても何ら遜色はないだろう。馬ノコを成立させるために三段目の香の位置を変えておかなければならないという機構も素晴らしいが、個人的には、それよりも66馬から後収束に至る手順が好きである。ここに長手数詰では乏しくなりがちな詰将棋本来の目的である”謎解き”の要素が存在している。それと手順前後がかなり見られるがこれはさほど気にならない。

松尾弥昇―「イオニゼーション」と比べてこの作品のよい点は収束が決まっている所だと思います。その点でこの作品は長手数記録が抜かされたとしても永遠に残る作品ではないでしょうか。

小林敏樹―実に素晴らしい。詰将棋の無限の可能性を教えてくれる。橋本氏の才能とそれを実現させた努力に敬服。

小林徹―いずれは出る千手超えと思いましたが、一気に千五百手をオーバーするなんて、信じられないくらいです。このプロットにはまだまだ工夫の余地が有りそうで、二千手超えも夢ではないでしょう。とまれ、この快挙に拍手を送ります。

市村道生―長手数の予感はあったものの、手数を算定してみると従来の記録を大巾に更新していた。完全ならば正に驚異的な作品である。この構想はまだ発展の可能性を秘めている感があるので、次弾を期待いたしたい。

(以下「座談会」「裏話」と続きますが、ひとまず割愛します……管理人)


昭和61年度の看寿賞長編賞を受賞。
また、ミクロコスモスは後に改作されました。


41歩成、52玉、62桂成、同玉、61と、52玉、51と左、62玉、72桂成、63玉、74と以下1525手詰。

なお、実際に手順を並べられるものが、「橋本孝治 普通詰将棋作品集」にあります。

 

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