> サイト一覧 > 読み物 > 私のベスト10スペシャル / 第13回 桜木健古(前)
 

力量からいっても作品発表数からみても、「ベスト10」など書くガラではないと自覚するのですが、柳原編集長じきじきのお誘いをいただいたとたん「据え膳食わぬは男の恥」(意味が違うみたい)とばかりに、飛びつくことにしました。
かえりみれば、創作を初めて試みたのが35歳ごろで、初入選が40歳。“遅咲きの桜”と自称する所以です。大器晩成といいたいが、身の程を知って小器晩成を志し、遅れついでに本誌同人作家入りの高年齢記録(永遠に破られる心配がないほどの)を達成してやろうかと、野心を燃やしたり、とてもダメと諦めたり、している次第です。
じつは今、創棋会作品集『金波銀波集』のための稿を書き終えたばかり。同じ作品に続けて二度も触れる気にはなれませんので、同集にのせた4作はこの「ベスト10」からは除くことにしました。ご了承ください。

指将棋が散文で詰将棋は詩――そのように、私は思っております。
中・長編が叙事詩で、短編は抒情詩ともいえようか。非力な私は中編以上は最初からゴメンこうむって、短編専門。駒の詩(うた)をリリカルに歌いたいと心がけていますが、満足できる作はなかなか生れてくれません。
11手詰以下を俳句とすれば、13手以上が短歌。そんな比喩ができるようにも思います。どうやら私は“短歌”の方が得手のようで、「13〜19手」ぐらいを自分の土俵と心得ています。

第1番 詰将棋パラダイス S42・4

24銀直、25玉、26飛、14玉、25角、同銀、16飛、同銀、15歩、25玉、14角迄11手詰。
超短編がニガ手なのは、一手一手の密度が濃く、創作のさいに強烈なエネルギーを必要とするためでしょう。
しかし、そんな私でも偶然の幸運によって、タマには水準作を作れることがあります。本作は、初心当時の私にしてはよく出来たというべき、「可憐なる好小品」です。
変化・紛れもかなりあるし、角による鉄砲詰という収束が予想しにくいことも手伝ってか、解答者をかなり苦しめたようです。打歩詰回避というテーマをも含んでいますが、一歩を打つために飛角を捨てるなんて、“詰将棋経済学”は、いつもながら不思議です。
発表時には玉方22金が歩だったのですが、当時「破天荒」なるペンネームのもとに、創作・解答・余詰指摘に怪腕をふるって暴れていた京都の少年会員から、5手目32角以下の難解きわまる余詰順を指摘され、解説を担当した今は亡き鶴田主幹ともども、タメ息をついたことでした。その破天荒クンが今の伊藤果プロ六段です。
年齢がゆけばゆくほど簡素図式への志向が強くなる私は、今この作に郷愁のようなものを感じます。「夢よ、もう一度」なんて思ってもみますが、それがなかなか簡単には……。
※管理人注※5手目23角などの余詰あり。金にしても消えなかったようです。

第2番 詰将棋パラダイス S54・12

12銀、同玉、24桂、22玉、23龍、11玉、22角、同角、12龍、同飛、23桂生迄11手詰。
短編競作展への参加作品。作者の言葉として、「まだ生きている証明に?一作を投じます」とある。きっと、長いブランクがあったのでしょう。
これからも生きている証明に、ときたま投稿しようと思いますから、選者のみなさん、ぜひ採用して下さいネ。(こらこら、こんな所でユスリを働いちゃイカン!)
「好形好作」という評をいただきました。ちょっとユーモラスな収束を狙い、逆算して、自然な好形にまとめることができたという次第。手順もまアまアでしょうか?

第3番 将棋ジャーナル S61・5

17銀、同と、37馬、16玉、28桂、同と、25銀、同玉、36飛成、14玉、16龍迄11手詰。
これも私にしてはよくできた11手詰です。平成……いや、平生の心がけがいいと(いえ、ほんとに)ときどき、詰棋の神サマが助けて下さいます。
初めは7手詰でしたが、もの足りなくて、序を4手加えました。この延長は成功したと思います。25銀がいわば中心手で、好評もこの手に集中。収束直前の手なので、ひときわ強い印象を与えることができたのでしょう。

第4番 将棋ジャーナル S59・6

25金、33玉、45桂、22玉、21飛、13玉、24金、同桂、25桂、12玉、23飛成、同玉、33桂左成迄13手詰。
創棋会の課題作「両王手の収束」に応募すべく作ったものの、締切り日を覚えちがえていて“遅刻”。柴田昭彦氏のお勧めで「将棋ジャーナル」に送ったら、初入選の上に「将棋ジャーナル賞」までいただいてしまったという奇妙な楽屋話をもつ作品です。「失敗は成功の基」という金言の、これぞまさに好適例でありましょう。(ウッソォ、ソレとコレとはちがうワヨ!)
キビキビとした動きと特異な収束が評価されたのだと思いますが、いま見ると、初形の広がりすぎと、13桂の不自然な配置が気に入りません。
ともあれ、詰将棋で賞なるものをもらった初めての作。59歳で初受賞とはやっぱり、小器晩成だなア!

第5番 詰将棋パラダイス S59・4

33銀、同桂、13銀、同玉、25桂、同桂、35角、22玉、44角、13玉、22銀、24玉、35飛成、同桂、33角成迄15手詰
柴田さんのお世話で、生意気にも個展なるものを開かせていただきたときの、6題中の一作です。玉方の桂のキキにこちらの桂を打つ(はねる)という手を実現させてやろう――と思ったのが出発点で、そこから前後双方に延ばしてまとめたもの。だから正算逆算併用の作図法だったといえます。
うまいこと「35角〜44角」の手が入ってくれて、作品らしいものに……。収束も引き締まりました。柴田さんの解説に、「前奏の25桂が素晴らしい」「易しいが、一手一手が生き生きとして、解後感も実に良い」「実戦型作品の佳作」……。ほめられ過ぎで照れくさいが、図々しく転載してみました。
※管理人注※9手目33銀以下余詰。発表時は、43香→玉方41香+攻方43歩で、こちらは完全。誤植か改良図かは不明。

 

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