> サイト一覧 > 詰将棋の鑑賞 > 鑑賞室 / 番外編2「王の行進」
 

詰キストにはパズル愛好者が多いためか、昔の詰パラにはパズルネタがよく掲載されていました。先に記した「一本道詰将棋」もその類ですが、今回は「王の行進」と題されたパズルをご紹介しましょう。

昭和59年3月号で、煙詰やフェアリーで名を馳せた飯田岳一氏から次のようなパズルが提案されました。


盤上に攻方99王のみを配置した場合、11に到達するまでに8手かかります。ここに玉方77金を追加した場合、最短で10手に伸びます。このようにして自玉以外の残り39枚をの駒を自由に置き(全駒使わなくてもよい)、99王が11へ行くのに、できるだけ手数のかかる図を作って下さい。

※動かせるのは自王のみ。敵駒の利きに入るのは禁手。敵駒を取ることはできる。二歩や行き所のない駒は置いてはならない。


この問題がまたもやマニアの心に火を付けてしまい、解答総数66の大繁盛!
以下の解答例を見る前に、いったいどれくらいの手数になりそうか予想してみてください。

[第1図]藤澤秀樹氏案

96歩を取って上に抜け出したいところですが、87に桂馬が利いています。そこで右から迂回してまずは75桂を奪取。9筋を通って61桂→戻って73角→戻って51香、と順番にはがして、63→54→45と右上部への侵入に成功します。15金→14角と奪ってこれで41桂が取れる形になりました。41桂→33飛→31桂と取って、ようやく12飛が取れる形になるわけです。

この「ヒモをつけている駒とつけられている駒」の配置の仕方が長手順を求める際のキーポイントとなります。

本作は252手の長手順ですが、応募者の中では2位!

[第2図]塚田修司氏案

そして最長手順を実現したのが本作。その手数253手で、藤澤作よりたった1手長いだけ!

単純に右上部に持っていくと23飛が取れずに失敗。その前に31桂を消さなければ……と、逆算すると、71桂→63飛→61桂→73角→31桂→23飛→21桂→33角、この順番で駒を取り、最後に11銀を取って目的達成です。正直な話、実に美しい機構と思います。

本作、銀と歩が1枚ずつ余っています。果たしてこの図が最長手数なのでしょうか? それとも全力を尽せばまだ伸びるのでしょうか?

【2019/08/26追記】
某氏より、後手89銀を追加すれば1手伸びるのでは?というご連絡をいただきました。
記録更新かと思い調査をしたところ、昭和59年10月号にて、すでに指摘があったことが判明しました。
調査不足をお詫びいたします。
現在の記録は、第2図に後手89銀を追加した「254手」となります。


この面白さに刺激され、後日新しい命題が課せられました。それは「王の逆行進」。
今度は11王が99まで到達する最長図を求めよという問題です。これには面白い結果が出ました。

[第3図]斉藤好幸氏案

応募数31の中で最長手順が255手! なんと「王の行進」よりも僅かではありますが長い結果が出たのです。
そして255手を作意としたのが、斉藤氏と有馬氏の2名いた!というのも驚くべきことでしょう。

本図は左辺から進入し、六段目と八段目の駒を順番に奪っていく構成です。37飛1枚で七段目に壁を作っているのが技ですね。

[第4図]有馬秀和氏案

こちらはやや厄介な図です。左辺から侵入し、46王、35王、36王と奪って逆戻り。これで39角を取り、66桂→58飛→56桂→88飛→86金→76香→78角→96香→98銀という順番で奪っていきます。

斉藤氏が全駒使い切っている(正確には玉1枚余っていますが)のに対して、有馬氏は歩を4枚も余しています。まだ伸びそうな気配があるのですが……。



このあと、先手99王、後手11玉をそれぞれ逆の地点に到達させる「仁王行進曲」というところまで発展しましたが、さすがに難度が高かったようです。出題者の日野秀男氏案は「1300手台」とありますから、その熱意たるや恐るべきものです。

さて、いずれも駒を余しての最長記録となっています。まだ伸びるのか、もう限界なのか……あなたはどう思いますか?


鑑賞室更新からしばらくして、2002年3月3日。1通のメールが届きました。
送信主は、斉藤好幸氏。そう、「王の逆行進」で最長手数記録を作った方です。
内容を見てさらにびっくり。なんと最長記録255手を14手も上回る図が提示されていたのです!

それでは早速ご紹介しましょう。

[第5図]斉藤好幸氏案

255手の図との大きな違いは七段目壁作りの方法。前図は37飛でおさえていましたが、本図は56銀・45桂という工夫がしてあります。そのおかげで「はがす駒」が飛車1枚分増えているわけです。

20年も昔に考えたことに再挑戦する。それがどれだけ情熱の必要なことかと考えると、作者・斉藤氏に拍手喝采を贈りたくなってしまいました。
74金がフリーなのに気付いたのでわたしも色々と試してみましたが、本図の構成では伸びないようです。

ここが極限なのか、まだ新しい扉があるのか……あなたも探してみませんか?

 

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